2006年12月04日

もうひとつの日本ー『持続可能な福祉社会』

持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想
持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想広井 良典

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読みながら興奮を覚える一冊に、久々に出会いました。
これは、日本の進路を考えるうえで、欠かすことのできない一冊です。

これまで、このブログでも広井良典氏の著作は何度か取りあげてきました。
今回もまた、期待を裏切らない濃密かつ視野の広い議論が展開されています。

著者の言う「持続可能な福祉社会」とは、「個人の生活保障や分配の公正が十分実現されつつ、それが環境・資源制約とも両立しながら長期にわたって存続できるような社会」を指します。

元厚生官僚である著者が、専門である社会保障論を超えて、今日の最もグローバルな課題である「環境・サスティナビリティ論」を含めて、トータルに、そして大胆に「21世紀における普遍的な社会モデル」を提示してくれています。

こうした議論に「興奮を覚える」と書いたのは、現在のマスコミの論調が概して近視眼的な各論ばかりで、21世紀を見据えた骨太の国家モデル論がどこにも見あたらないからです。

著者が提案する「持続可能な福祉社会」は、ヨーロッパ型、特に北欧型社会民主主義を基調とする社会モデルを指します。現在、小泉改革以降の政治論議の中で、盛んに「格差社会」が問題になっていますが、これはあくまでもアメリカ型の市場万能・競争主義社会にしか目が向けられていない議論です。

戦後、膨大にふくれあがった財政赤字の解消が避けられない課題であることは間違いないところですが、それが単なる民営化・市場化・規制緩和・自由主義経済化、すなわち「小さな政府論」にだけ向かうのは、現在のグローバルな潮流を踏まえたものとは言えません。

むしろ、アメリカ型の極端な自由主義経済がもたらした格差社会は、世界でも特異なものであって、ヨーロッパ諸国の多くが社会民主主義的政治風土を少なからず持っているのが現状です。

特に最近注目を浴びることの多い北欧諸国、例えば学力世界一となったフィンランド、風力発電をはじめとする環境・エネルギー政策で注目されるデンマーク、スウェーデンなどは、北欧型社会民主主義を実に巧みに成功させていると言えるでしょう。

ただし、多くの日本人がイメージする北欧社会は、「高負担・高福祉」といったもので、とかくその税率の高さが敬遠されがちです。そして、ともすれば高齢者や障害者への福祉政策ばかりが注目されがちです。

しかしその実態は、教育、福祉、産業、環境・エネルギーなどの各政策が有機的に連携しあって、実にバランスのよい「豊かな国」を実現させているのです。

最近になって、ようやくヨーロッパ型社会モデルに関する議論が一部ではありますが識者の間で議論されるようになりました。しかしマスコミをはじめとする一般の論調の中では、ほとんど取りあげられることはありません。(北欧社会については、福祉や環境・エネルギー分野に関して部分的に触れられるのみか、あるいはインテリアや家具、デザイン、雑貨、そしてスローなライフスタイルが注目されるにとどまっていて、それらを実現させている基盤である社会システムにまで言及されることはほとんどありません。)

このような状況の中で、広井氏の指摘は、まさに現在の日本の論調の中ですっぽり抜け落ちている部分に光を投げかけてくれるものです。

しかもその視点は実にラディカルなものです。

物質的な需要がすでに飽和し、かつ資源・環境制約の問題から無限の拡大志向が許されない時代において、私たちの経済と社会はどのようなものであるべきなのでしょうか。

広井氏は、提唱する「持続可能な福祉社会」が、「“私利の追求”の体系としての市場経済システムが全面的に展開してきたその極限において「反転」するようなシステムということであり」、「従来の資本主義・社会主義という概念をはみ出るもの」と指摘しています。

人間の欲望を「需要喚起」という名で無限に拡大させ続けてきた資本主義の歴史は、ついには資源・エネルギーの有限性という当たり前の事実につきあたり、その本質を転換せざるを得ないところまで来ていると言えます。

それはまるで、お釈迦様の手の内で得意になっていた孫悟空のようです。

いま、この局面は決して「行き詰まり」ではありません。
人類はここへ来て、ようやくまっとうな生き方、まっとうな社会を実現する方向に向かわざるを得なくなったと言えるのではないでしょうか。

ただし、お釈迦様に諭された孫悟空のように、人類がこの事実に気づき、世界に調和・平和・安定・幸福をもたらせるかどうかは、これからの私たちの判断と行動にかかっていると言えます。

posted by Toshi at 17:59| Comment(0) | TrackBack(0) | Workstyle for Sustainability | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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